ドライブチェーンは、エンジンの力を後輪へ伝える部品です。むき出しのまま雨や砂にさらされるため、バイクの中でもとくに傷みやすい消耗品でもあります。手をかければ長持ちしますが、放っておくと動きが渋くなり、スプロケットまで一緒に傷めます。伸びきったチェーンが外れると、後輪をロックさせたりケースを割ったりすることもあります。
そのわりに、清掃と注油だけなら道具も技術もほとんど要りません。まずはそこから始めて、慣れてきたら張りの点検、調整、交換へと進めていける作業です。
いつ、何をするか
チェーンメーカーが示している目安です。距離だけでなく、走った条件でも変わります。
| タイミング | すること |
|---|---|
| 500kmごと | 清掃と注油 |
| 雨の中・悪路を走ったあと | 距離に関係なく清掃と注油。水と砂が油を流してしまうため |
| 新品チェーンは200〜300km | 初期の伸びを取る張り調整。新品は最初によく伸びる |
| その後は500kmごと | 張りの点検・調整 |
出典:江沼チヱン(EKチェーン)/大同工業(D.I.D)のメンテナンス情報。
チェーンの寿命の目安
| 種類 | 目安 |
|---|---|
| シールチェーン | 約15,000〜30,000km |
| ノンシールチェーン | 約5,000km |
| 年数 | 約5年以上経過したものは、走行距離にかかわらず交換を検討 |
使い方と手入れの有無で大きく変わります。距離が短くても、伸びや固着があれば交換時期です。
用意するもの
清掃と注油だけなら、上の4つがあれば足ります。
- チェーンクリーナーシールチェーン対応と書かれたもの。1本 1,000円前後
- チェーンブラシやわらかい毛のもの。ワイヤーブラシは使わない
- ウエス(布)拭き取り用。多めに用意すると楽
- チェーンルブ(潤滑剤)シールチェーン対応のもの。1本 1,000〜2,000円前後
- 後輪を浮かせるものセンタースタンド、またはメンテナンススタンド
- 定規・メジャーたるみを測る。目分量にしない
- レンチ類アクスルナット・ロックナット・アジャスター用
- トルクレンチアクスルナットの締め付け確認に。あると確実
- 新聞紙・段ボール下に敷く。クリーナーとルブは飛び散る
- チェーンツールカシメ式チェーンの交換時のみ。切断・圧入・カシメを行う
- ノギスカシメ式の交換時、圧入した幅の確認に
清掃と注油
いちばん基本の作業です。所要は15分ほど。ここだけ続けるだけでも、チェーンの寿命はずいぶん変わります。
-
後輪を浮かせる
センタースタンドかメンテナンススタンドで後輪を浮かせると、チェーンを回しながら作業できます。浮かせられない場合は、少しずつバイクを前後に押して位置を変えながら進めます。ギアはニュートラルに入れてください。
-
クリーナーを吹いて、やわらかいブラシで洗う
チェーン全周にクリーナーを吹き、ブラシで汚れを落とします。内側・外側・側面と、面を変えながら当てるときれいになります。強くこすらなくても、汚れは浮いてきます。
-
ウエスで拭き取り、乾かす
浮いた汚れをウエスで拭き取ります。クリーナーが残ったまま注油すると油がのらないので、少し置いて乾かしてから次へ進みます。
-
ルブを、リンクのすき間にしみ込ませるように吹く
3〜10cmほど離して、チェーンを回しながら全周に吹きます。狙うのは表面ではなくプレートのすき間とローラーの内側です。表面にべったり乗せても意味がありません。
-
少し置いてから、余分な油を拭き取る
数分置いて浸透させたあと、表面の余分な油をウエスで拭き取ります。拭かずに走ると、飛び散って足まわりを汚すうえ、砂を呼び込んで逆に摩耗を早めます。「中に入れて、外は拭く」が基本です。
たるみの点検
チェーンは走るうちに少しずつ伸びます。伸びるとたるみが増え、放っておくと外れたり、駆動系に負担をかけたりします。
- 測る位置は前後スプロケットの中間あたり。端のほうで測ると値が変わります。
- 適正値は車種ごとに違います。スイングアームに貼られたラベル、または取扱説明書に書かれている数値に合わせてください。多くの車種では20〜30mm前後ですが、必ずご自分の車種の値で判断してください。
- 測る条件も取扱説明書に従います。車体を垂直に立てた状態か、サイドスタンドのままか、人が乗った状態かで値が変わります。
- 1か所だけでなく、数か所で測ります。ホイールを少しずつ回して何点か確認してください。
張りの調整
たるみが規定より大きければ、チェーンアジャスターで後輪を後ろに下げて張ります。手順そのものは難しくありませんが、締め付けと左右のそろえ方だけは丁寧にしてください。
-
後輪を浮かせ、アクスルナットをゆるめる
アクスル(後輪の軸)のナットをゆるめます。完全に抜くのではなく、後輪が前後に動く程度までです。車種によってはロックナットやトルクロッドの固定も外します。
-
左右のアジャスターを、同じ量だけ動かす
スイングアームの後端にある調整ボルトを、左右とも同じだけ回します。片側だけ動かしてはいけません。ホイールが斜めになり、タイヤが偏って減ります。
-
たるみを測りながら合わせる
少し動かしては測る、を繰り返して規定値に合わせます。張りすぎは、たるみすぎよりも危険です。チェーン・スプロケット・ベアリングに常に力がかかり続け、最悪の場合チェーンが切れます。迷ったら「やや緩め」に振ってください。
-
左右の目盛りがそろっているか確認する
スイングアームには目盛りが刻まれています。左右が同じ位置にあることを目で確認してください。ここがずれると後輪がまっすぐ向きません。
-
アクスルナットを規定トルクで締める
締め付けの強さは車種ごとに決まっています。取扱説明書やサービスマニュアルの数値どおりに締めてください。後輪を留めている、いちばん重要なナットです。ゆるいと走行中に大ごとになります。
-
もう一度たるみを測る
ナットを締めると、位置がわずかに動いてたるみが変わることがあります。締めたあとの数値が本番です。
-
後輪を手で回して確認する
引っかかりや異音がないか、チェーンがスプロケットに素直に乗っているかを確かめます。問題なければ完了です。
交換時期の見分け方
チェーンの伸びは、リンク1つ1つのわずかなガタが積み重なったものです。1つあたり0.1mmのガタでも、100リンクあれば10mmになります。1か所を見ても分かりませんが、全体では確実に表れます。
こうなっていたら交換を考える
- アジャスターの調整幅を使い切った。いちばん分かりやすい合図です。これ以上張れないなら交換です。
- 場所によってたるみが大きく違う。伸びが不均一になっています。
- 曲がらないリンクがある。油が切れて固着した状態です。注油しても直らなければ交換です。
- 後ろスプロケットの後端で、チェーンを外へ引くと歯が大きく見える。チェーンが伸びて歯にかかりきっていません。
- スプロケットの歯が尖っている・波打っている・片減りしている。上の図の右側の状態です。
- 赤錆が浮いて、注油しても取れない。内部まで進んでいることがあります。
チェーンの交換
チェーンのつなぎ目(ジョイント)には2つの方式があり、必要な道具がまったく違います。まず自分の車種がどちらかを確かめてください。
クリップ式
金具(クリップ)で留める方式。原付や小排気量車(415・420・428サイズなど)に多く使われます。プライヤーがあれば脱着できます。
カシメ式
ピンをつぶして固定する方式。250cc以上のシールチェーンではこちらが一般的です。専用のチェーンツールが必要で、道具なしでは作業できません。
クリップ式の交換
-
クリップを外して、古いチェーンを取る
プライヤーでクリップを押し開いて外します。飛びやすいので、手やウエスで覆いながら外してください。小さな部品なので、落とすと見つかりません。
-
新しいチェーンをかける
前後スプロケットに通し、両端をジョイント部で合わせます。長さ(リンク数)が合っているか、取り付け前に必ず確認してください。
-
Oリング付きなら、グリスを塗ってから組む
付属のOリングは、指定の位置に正しく入れてください。1つでも入れ忘れると、そこからグリスが抜けます。
-
クリップは、丸い背の側を進行方向へ向けて付ける
上の図のとおりです。逆向きに付けると、何かに当たったときに外れやすくなります。チェーンが外れると後輪をロックさせることがあり、走行中に起きると危険です。
-
完全にはまっているか確認する
クリップが溝にしっかり収まっているかを目と指で確かめます。少しでも浮いていたら付け直してください。
カシメ式の交換
-
チェーンツールで古いチェーンを切る
工具でピンを横から押し出して切断します。作業前に、新旧のリンク数が同じかを数えて確認してください。
-
新しいチェーンを通し、ジョイントにグリスを塗る
Oリングを正しい位置に入れ、指定のグリスを塗ります。ここを省くと寿命が縮みます。
-
プレートを圧入する ― 入れすぎない
圧入しすぎると、Oリングがつぶれて機能しなくなります。他のリンクと同じ幅になるように、ノギスで測りながら少しずつ進めてください。「もう少し」で入れすぎるのが失敗の定番です。
-
ピンをカシメる ― 工具の芯を合わせる
カシメ工具の先端の中心と、ピンの中心を正確に合わせます。ずれたまま力をかけると、ピンが片側だけつぶれて強度が出ません。ここが最大の山場です。
-
カシメたあとの寸法を確認する
チェーンの説明書に、カシメ後のピン頭の直径が指定されています。ノギスで測って範囲内に入っているかを確認します。足りなければ抜ける、やりすぎれば割れるので、数値で確かめてください。
よくある失敗
- パーツクリーナーや灯油で洗ってしまう。いちばん多い失敗です。汚れは落ちますが、Oリングが傷んでチェーンの寿命を縮めます。専用クリーナーを使ってください。
- 張りすぎる。「ピンと張ったほうが良さそう」と思いがちですが逆です。常に力がかかり続け、チェーン・スプロケット・ベアリングを傷めます。迷ったら緩めに。
- 左右のアジャスターがそろっていない。後輪がまっすぐ向かず、タイヤが偏って減ります。目盛りを必ず目で確認してください。
- 注油して拭き取らない。余分な油が飛び散り、砂やほこりを呼び込んで、かえって摩耗を早めます。
- 車体を傾けたまま測る。サスペンションの沈み方が変わり、たるみの値も変わります。取扱説明書の測定条件に合わせてください。
- スプロケットを換えずにチェーンだけ交換する。減った歯が新品チェーンを削り、せっかくの新品が早く傷みます。
- クリップの向きを間違える。走行中に外れる原因になります。丸い背の側が進行方向です。
ここから先は、お店に任せたほうが安心です
次のような場合は、無理をせず整備工場へ持ち込むことをおすすめします。
- アクスルナットの締め加減に自信がなく、確かめる手段もない。後輪を留めている要のナットです。ゆるいまま走ると危険です。
- アジャスターが固着して動かない。無理に回すとねじ山を壊します。
- 調整幅を使い切っていて、これ以上張れない。調整ではなく交換の段階です。
- カシメ式で、工具がない、またはカシメに不安がある。やり直しがきかず、失敗すると走行中に外れます。
- スプロケットの交換を伴う。後輪の脱着が必要になり、作業が一段大きくなります。
- 後輪を安全に浮かせられない。不安定な場所での作業は、それ自体が危険です。
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チェーンは、手をかけた分だけ長持ちします
清掃と注油だけなら15分ほどでできて、効果もはっきり出ます。張り調整や交換は、そのうえで少しずつ覚えていけば十分です。作業に不安があるときや、途中で困ったときは無理をせずご相談ください。
※ 記載の目安は一般的なものです。車種ごとの指定(たるみの適正値・締付トルク・チェーンサイズとリンク数)は取扱説明書をご確認ください。
※ 作業はご自身の判断と責任で行ってください。不安がある場合は整備工場へご相談ください。